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− 治療の前に −

 いま使っている入れ歯がどうも具合が悪い。
できれば自分の歯があった時のようにならないだろうか?。
こうした悩みをお持ちの方によくお目にかかります。残っているご自分の歯に問題がある場合、入れ歯自体の方に不具合がある場合、原因はさまざまですが現象としてはそれほど複雑ではないようです。お話をうかがうと、複雑なのはそれぞれの方のこれまでの経緯や、今後にどんなことを期待されるかにあるような気がします。そして問題点は住宅設計の場合とよく似ているように思います。都心部のような条件では一軒家を建てることは稀ですから、ちょっと状況は違うかも知れませんが、都市周辺部に一戸建ての住宅を作ると考えてみて下さい。
  1.  まず施主となる方の年齢によって大きく考え方は変わるでしょう。
    これからふくらんで行くであろう家族構成を考える場合と、老後をのんびり過ごそうという方では、快適さに寄せる期待は同じでもその内容も、将来に対する変化予測の巾も長さも大きく違うはずです。一般的に若い方の方が不確定要素が多いので予測は困難ですが、より長期的な期待を持たれるはずです。40台では10年という単位はそれほど長い時間とは考えられないでしょう。しかし60台ということになれば10年先が見通せればまずまずと考えられるはずです。入れ歯に寄せられる期待感もよく似ています。

  2.  次は施主となる方の性格や感性です。
    この点は職業とも微妙に絡んでくるかも知れません。少々の痛みや不具合は堪え忍ばれる方もあります。反面 ちょっとしたことでもすぐに解決しておかなければ気がすまない方もいらっしゃいます。他人から見れば雑然とした散らかり方に快適さを感じられる方、すべてををきちんと整理整頓しておかなければ気がすまないい方、快適さにもさまざまな違いがあるはずです。いざ新築となっても、建て売り住宅のほうが現物が見られるし面倒がなくて良いという方もあるでしょう。気に入った設計者を探し、綿密な打ち合わせをしてからでなければ・・・という方もあるはずです。

  3.  第3番目は時間的、経済的制約です。
    どちらの条件も余裕があるに越したことはありません。しかし、そんなことは稀ですし何も制約がなくすべてお任せといわれても、どうしてよいのか分からなくなってしまうのではないでしょうか。施主とのキャッチボールの中でいろいろのことが決まってくるので、投げた球が返ってこないことには先に進めないということも起こるものです。
     まだまだ他にも条件は少なくありませんが、この3つだけでも多様なオプションがでてきます。そのどこまでを理解し合えるかという点では、施主と設計者の相性がでてきます。言葉で表現できること、相互理解できることには限界があるからです。私たちの仕事でも、患者さんとの相性はきわめて大きな要件です。同じような考え方をお持ちの方では、はじめてお目にかかったときから、限られて時間の中でも沢山のことが理解できますし、それに沿って治療の計画をまとめていくことができます。しかし現実にはそんなことは稀ですから、いろいろお話をうかがったり、治療を進めながら少しずつ理解を深めていくわけです。歯科疾患の多くは生活習慣病的な色合いが強いだけに、その方その方の考え方や生活実態を把握することがどうしても不可欠なものになってしまいます。

− 治療の段取り −

  1.  問題は何か。どうしてこうなったか。
    人の歯は30本前後ですが、入れ歯が必要になるまでには10本は歯を無くされているはずですし、むずかしい状態になるのは半数ほどが無くなってからのことが多いようです。これだけ沢山の歯が無くなるには何か共通の原因があるはずです。入れ歯の留める針金をかけた歯がつぎつぎに駄目になったから、針金が悪いのだと思っていらっしゃる方も多いようです。たしかに現象としてはその通りかも知れません。しかし原因がそれだけと考えるのは無理があるようです。抜歯された歯の隣に針金はかけられますが、これらの歯はすでにそれ以前から弱っていた可能性が高いからです。
     歯が失われる原因は大別すると虫歯か歯周病(昔は歯槽膿漏といっていました)です。ただ虫歯の場合は一本ずつが壊れていくわけですし、抜歯に到るまでには歯の形が崩れたり痛んだり自覚症状もでてきます。ところが歯周病の方は初期中期ではっきりした症状はでてきません。腫れたり痛んだりするのは相当病気が進んでしまってからです。歯の中だけが壊される虫歯と違って、歯を支えている周りの歯根膜や骨が壊されてしまいますから元に戻すことはきわめて困難です。30年ぐらい前までは完全に治すことはできないと考えられていました。同じ環境の中に置かれた何本もの歯に同時進行して行きますから、ある時同時に沢山の歯を失うことは珍しくありません。
     虫歯にはあまり悩まされず自分の歯は丈夫だと思っていた方が、40〜50台になって急に次々と歯を失われるのはそのほとんどが歯周病ですが、その始まりはずっと以前のことなのです。

  2.  炎症とストレス
     歯周病は細菌感染で骨や歯肉が壊されていく病気ですが、その過程では局所的な炎症がおこされています。炎症が強ければ破壊の進行も早いのは当然ですが、もしその歯にあまり大きな力がかかっていなければ進行は緩やかです。しかしあちこちの歯が抜けて噛み合わせが悪くなれば、特定の歯だけがぶつかるようになってそこだけにストレスが集中します。こうなると炎症とストレスの悪循環が始まり、破壊は相乗的に大きくなります。末期でなければどちらか一方でも取り除ければ状況は改善されますが、放置されればこれまでは予想もしなかった速度で事態は悪化して行きます。

  3.  初期治療
     具合の良い入れ歯を作る第一歩は口腔内環境の改善です。歯周炎の元になっている歯石や歯垢を徹底的に除去することが何よりも先行します。過大な負担に喘いでいるような歯があればストレスから解放し、できる限りバランスのとれた噛み合わせにすることも重要です。順調に進めば2〜3週間で出血しやすかった歯肉は引き締まり、動揺していた歯も次第にしっかりしてきます。
     この段階で最も大きな役割を演じるのは毎日のブラッシングです。健康な方と同じに2〜3分で片づけることはできません。それぞれの歯の状態に応じて丹念な手入れが必要ですから、少なくとも10分位は必要でしょう。時間をかけさえすれば良いというわけでもありません。改善への強い意志とともに、部位や目的によってきめ細かな手入れが続けられることが必要です。長い習慣を変えることは容易ではないでしょうが、これが乗り切れれば事態はめざましく改善されるはずです。
     よほど重症でないかぎり、初期治療が成功すればその後の治療や入れ歯の製作も順調に進みます。反対にここが乗り切れないと後々まで不安を残すことになってしまいます。

  4.  予測のための治療
     初期治療の段階から将来の入れ歯の形を予測して仮の入れ歯を使って頂きます。初めはこれまでの入れ歯を改造しながらやりくりをして行きますが、つぎはぎが限度にきてしまうと新しく第二段階の仮歯にバトンタッチします。それによって歯周組織の治癒も促進されますし歯並びなどの外観も整えられますが、その調整には治療の度に長い時間を割かなければなりません。第3の仮義歯が必要なことも少なくありませんし、本義歯製作に入ってからも別な仮歯が必要です。しかしこれらによって最終形態がつめられていくので省略することはできないのです。

  5.  治療のための犠牲
     新しい入れ歯を作っていくために、どうしても残っているご自分の歯を削ったりしなければならないことも起こります。できることなら残り少ない歯を傷つけたくはないのですが、装着感、外観、丈夫さなどの要求を満たそうとすると、やむをえないことも少なくないのです。とくに最近では小臼歯部でも金属の露出は嫌われるので、苦慮することが多くなりました。最少の犠牲で具合の良い入れ歯を作りたいという思いは私たちも同じなのですが無い袖はふれないのです。

  6.  先の見通し
     虫歯の治療と違って入れ歯の場合は、沢山の歯を組み込んでの運命共同体になります。しかも組み込まれる歯の状態は決して万全とはいえません。無くなった歯と同様なダメージは残りの歯にも及んでいるからです。おおよその予測はたつのですが、予測は予測!ということも起こります。こうした時にすべてがご破算になってしまうのでは困ります。不幸にして何本かの歯が失われるようなことになっても、大事には到らず使い続けられるような配慮はどうしても必要です。

  7.  アフタケア
     人により年齢によっても違いますが、歯も骨は年々変化を続けていきます。歯周病などがんなくても経年的な変化は避けられません。一方、どんなに精巧に作られた入れ歯といえど所詮は人工物ですから、生体の変化には追従できません。年月を経れば入れ歯とのギャップは少しずつ大きくなります。隙間が大きくなれば入れ歯は動揺をはじめ、土台になっている歯は揺すられることになります。これは土台の歯にとっては大敵で、歯が割れたりグラグラになったりする原因になります。さらに進めば全体の噛み合わせも崩れてきます。こうした問題や虫歯、歯周病の再発を防止するためにもアフタケアはきわめて重要です。新しく入れ歯が入った時にはこまめに、安定してきてからでも年に一度の点検は不可欠です。その方なりのプログラムに沿ったメインテナンスは、治療よりも大切だといっても言い過ぎではありません。治療とメインテナンスの両輪が揃えば10年20年の使用も夢ではありません。そうした事例はこれまでに沢山経験しています。