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ハッセルとぐい呑み

第二回

 

 

 

 

 

安土桃山時代に里帰り

 ものの本によると、室町時代まで盃らしい物は出てこないということです。ようやく桃山時代も後半になって盃らしい物、今でいうぐい呑が沢山出てくるようです。これは利休に代わった古田織部の茶に対する考え方が、器の世界にも反映されたものと考えられています。利休の思想に遊びの要素を取り入れたのが織部の茶の思想だといわれていますから、新しい酒器の登場もその延長線上のことなのでしょう。そのせいか「ぐい呑」を作るには、抹茶碗の形を真似て小さく作ればよいという陶芸家が今でも多いようです。一個何十万円という人間国宝クラスの陶芸家の作った「ぐい呑」にはそんな形のものが多いようです。しかし私はあえてちょっと待て!と言いたいのです。

 

 

 

 

 

 

ブランデーグラスとスープ皿

 古田織部の遊び心は大切にするとして、抹茶碗は多少の例外を除いて、口、胴、腰の関係が垂直か、ブランデーグラスのように下ぶくれ気味の形をしています。この形は、茶道で親指を縁に掛けて持ち上げ、片方の手のひらに乗せて口に運ぶには向いています。しかしぐい呑のように親指と人さし指か中指ではさんで口に運ぶ時に、酔いが回るにつれてツルリと落としやすい形です。さらに形がしもぶくれになればなるほど、器をだんだん持ち上げて傾けねばならず、相手に喉仏を見せるような格好になってしまいます。茶道では最後に茶碗の尻をグーンと持ち上げ、ズズッとすするようにいただきますが、酒の呑み方としては下品な飲み方だと私は思っています。できることなら傾ける角度は90度未満でありたいので、抹茶碗型は持ちにくく、呑みにくいと決論づけました。

 

 

 

 

 

 しもぶくれと対岸の形にあるものが皿です。浅い皿ならば10度も傾ければ全部飲み干すことができます。しかし大皿で酒を呑むことをイメージしてみて下さい。持ちにくくこぼれ易いことや、大きめに作ると口角部から漏れやすいなど浅ければ良いというものではなさそうです。

 

 

 

図1図1

図2図2

 

サイン・コサイン・タンジェント

 そこで、いろいろの角度の飲み口を持つぐい呑を作って実験してみました。ぐい呑の大きさにも関係しますが、図-1のように角度が、90°>α>30°の範囲にあるのが呑みやすそうだと分りました。さらに、口の部分を少し広げて図ー2のようなツバのようなものを付けると90°>α>45°位 の時に一層飲みやすくなります。引っ掛かりができるので指ではさんで持ちやすく、落とす心配もなくなります。ツバ先をシャープにすることでさらに飲みやすくなり、酒の味にも敏感に反応できることも分ってきました。

 

 

 

堅い焼き物と柔らかい焼き物

 次には形の雰囲気の問題です。ロクロではご飯茶碗のようにまったく歪みがない真円の物から、ロクロ目という、指跡の残るやや歪んだ物まで、さまざまな円形に仕上げることが出来ます。おちょこは真円ですが、ぐい呑は遊び心を大切にしてロクロ目を残したり、歪ませたりしたいところです。これに関しては使う人の好みもあるし、きちんとした真円に引けないと思われるのも業腹なので、きれいな真円の物も作ることにしました。この時の最大のこだわりは高台(いとぞこ)をどうするかです。最初にロクロを引いて一度生乾きにし、次に尻を削って高台を付けて仕上げますが、この時に堅くなった所を削って高台を付けても、粘土の柔らかい時に引いた感じをそこなわず、全体としてバランスのとれた柔らかい雰囲気が出せればいいのです。

 

 

   上から見るとモワッと柔らかい感じなのに高台がシャープに削られてしまっていたり、反対に上は真円にキッチリと引いてあるのに、高台がグニャっとしていたりするのは、バランスも悪くあまり感心できません。ここが一番難しいところで、焼物を観賞する時に、ひっくり返して高台を見ている人はそんな所を見ているのです。

 

 

強い人も、弱い人も

 大きさもかなり気になる所です。最初の頃師匠からは「大きく、大きく作れ!」と何度も注意されました。ちびちびではなくぐいと酒を呑む器が「ぐい呑」だから湯のみでも引くつもりで引けと言うのです。そんなわけである時期はだいぶ大きく引いていたこともあります。しかしある時、強い人の「ぐい」と、弱い人の「ぐい」とでは同じ「ぐい」でもその量 には差があるのではないかと気が付きました。
 それだったら「ぐい呑」の範疇で強い人には大きく、弱い人には小さく作れば同じように酒が楽しめるはずです。そう考えると大きさに関しては、その時の気分で酒が強くなったり弱くなったりしながら引けばいいのだと気が楽になりました。プロとは違って同じ物を500個とか1000個引く必要はなく、一個づつ違う物を引けばいいわけで、楽しく作った器の方が楽しく酒が呑めるんじゃないかと勝手に決めて、呑みやすい形を自分の頭に叩き込んだ後は、水引きも、削りもリズムに乗って大胆に楽しんでやることにしました。

 

 

 

白 〜 茶 〜 黒

 粘土は最初からいろいろな種類の物を使うつもりでしたので、先ずそれぞれの粘土が焼き上がった時の、癖や特徴などを学びました。ご存じの方も多いと思いますが、焼物はおおきく分けて磁器と陶器に分けられます。磁器は白い生地に透明な釉薬を掛けて1300度〜1400度の高温で焼かれます。叩くと澄んだ音がして、薄く作られた物は光にかざすと、半透明に光が見えます。有田、伊万里、九谷、瀬戸などが主な産地です。染め付けなどと呼ばれているのもこの仲間です。磁器のぐい呑を作るには「磁器粘土」を使います。
 一方、陶器は1200度前後で焼かれて生地は白から茶系の色で、様々の釉薬が掛かっています。叩くとやや鈍い音がして、どんなに薄く作っても光は透しません。ここ笠間などほとんどが陶器の産地です。粘土は多種に渡りますが、焼いたあとで生地が茶色になるのは鉄分のせいで、鉄分が多ければ多いほど茶色が濃くなって黒っぽくなります。
 粘土を選ぶ目安には、ひとつに、鉄分の含有量があります。この量によって生地の色が決まるので、単身(たんみ、特定の産地純産でブレンドしてない)粘土で気に入ったものが見つからない時には、鉄分の多い粘土と、鉄分の無い白い粘土とをブレンドして、自分好みのものを作ります。粘土の粒子の大小も問題です。小さければ肌合いは滑らかになり、大きければざらざらになります。さらに、ぶつぶつにしたい時など、シャモットと呼ばれる石の粒を粘土に混ぜ込むこともあります。たくさんの種類の粘土を使うと言うのがねらいですから、どん欲に単身やブレンドした粘土に挑戦しました。 

 

第三回へつづく

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