金子歯科医院 [蔵のページへ] 
第一回  第二回 第三回 最終回

 

ハッセルとぐい呑み

第三回

 

 

 

 

 

 

ビスケットを焼く

 形が仕上がると天日でしっかりと乾燥し、いよいよ第一回目の窯入り「素焼き」をします。800度位の低火度で焼きますが、焼き上がりが薄い茶色で色や肌合いがビスケットに似ているので、この温度の火はビスケット・ファイヤーとも呼ばれます。素焼きをして少し強度をつけておくと、絵付けをしたり釉薬をかけたりする時に壊れるのを防ぐことが出来ます。さらに、焼き物は窯の中で200度と650度を通過するときに割れる危険がありますが、素焼きでここをクリヤーしておくと本焼きの時に割れる危険が少なくなるのです。
 素焼きが上がればいよいよ本焼きです。普通はここで釉薬を掛けることになりますが、掛けないで焼くこともあります。これを「焼き締め」と言い粘土そのものの焼き上がりの美しさを表現したいときや、粘土の生地が炎に当たって変化する面白さを狙うときなどに行います。

 

 

灰釉のぐい呑

灰釉のぐい呑2

 

 

 

やっぱり化学です

 釉薬の種類は数え切れないくらい沢山あり原材料もいろいろです。初めは原材料や調合の話をされてもチンプンカンプンなので、師匠や近くの陶芸家が見かねて「これを使ってみろ」と本来は門外不出の自分の釉薬を分けてくれました。自分自身では手が出せないし釉薬に関して欲の深い私は遠慮なくこれを頂戴しました。さらに出来合いの既製釉薬も何種類か手に入れましたが、これだけでは何となく物足らないのです。やはり自分だけの釉薬も作って使ってみたいと思うようになりました。
 釉薬と原材料のことを調べはじめると、セラミックなど陶工業で使われる釉薬とは違って、陶芸家の使う釉薬は数は多いものの、原材料はほぼ決まっていることが分かってきました。磁器のように白く仕上げる時には石灰や長石や珪石が、陶器の場合にはそのほかに木灰、わら灰、カオリンなどが主な原材料になり、色を付けるためには鉄、コバルト,銅などが使われます。これらが窯の中の高温で化学変化を起こして釉薬として粘土にお化粧をしてくれるのです。
 ぐい呑は日本酒を飲む器なので、どうしても伝統的な釉薬が似合うように思えます。そこで伝統的な原材料の一つである「灰」に注目しました。

 

 

灰釉のグリーン-A

 

 

灰で、ハイに

 灰は高温下でビードロ状になるのですが、これを釉薬として一番シンプルに利用したのが備前や信楽です。ここでは焼き締めと同じに釉薬を掛ずに穴窯(あながま)に詰め一週間以上松の薪を焚きます。すると松の灰が器の上に降り積もってやがて高温でビードロ状になり、釉薬がかかった状態になります。灰がどのように掛かるかはその時の窯の気分次第で、これが「自然釉」と呼ばれる所以です。しかし、一週間もかかるくらいですから灰だけではなかなか溶けにくいのです。そこで、灰に長石と珪石を加えて溶けやすく調合した釉薬が灰釉(はいゆ)です。灰釉は透明なグリーンのガラスに覆われたような仕上がりで、器の底などに溶けて厚く溜まった部分のグリーンの美しさに特徴があります。このグリーンは灰の種類によって淡いブルー系からモスグリーンまでさまざまに変化し、灰,長石、珪石の割合を変えることによって肌合いも変わります。さらに、生地の粘土に含まれる鉄分の割合によっても変化します。こんなわけでこの無数に変化する「灰釉」にだんだん魅せられていきます。

 

 

 

三角座標

 

 

順列と組み合わせ=∞

 灰釉の変化には三つの要素がありそうですが、実は四つあります。一つ目に長石、珪石との調合の割合、二つ目に灰の原料となる素材の違い、三つ目に生地粘土の違いですが、もう一つ、後で行う「窯の焚き方」があるのです。四要素の組み合わせは天文学的な数になり、一生かかっても結論は出ないでしょう。プロの陶芸家は修行中におおよそのポイントに狙いを付けて、重点的にその周辺の調合や灰でテストを重ねて自分だけの釉薬を作ります。私の場合も釉薬は何種類あってもかまわないのですが、無駄はなるべく少なくしたいので、自分好みのぐい呑の灰釉を作るにはどうするかに絞って模索する、ことになりました。

 

 

釉薬の原料2

 

五つ目の要素

 最初に、長石、珪石と調合する割合の問題ですが、これは実際に割合を変えた灰釉を何種類か作って、一定の粘土に掛けてテストピースを作らなければなりません。これには調合三角座標という基本的な方法があります。三角形のそれぞれの頂点に灰、長石、珪石をとり、それぞれの割合の交点に実際に焼いたテストピースをおいてゆくのです。そして自分の作品には合っていると思ったあたりの調合を重点的に攻めてゆけば、色や溶け具合も含めて自分好みの調合が見つかるわけです。
 しかし実際にやってみるとこれがえらく大変な作業となりました。窯の上と下では温度差があり、同じ調合のピースでも溶けたり溶けなかったり同じ色に上がらないのです。さらに上、中、下部の温度の要素も入て五要素!なんていうことをやっていてはきりがないので、溶けた温度に限定して進めることにしました。松の灰でテストした結果は、灰:長石:珪石=45:45:10で、温度は1270度という結果がでました。
 そうそこでこの周辺に限って数種類を調合することにしました。

 

 

薪ストーブ

樫の薪

 

 

原料は薪ストーブで

 次に、問題の「灰」の原料になる木の種類です。当然、木の種類によって成分は異なり、燃やした結果の灰の成分も異なります。また欲が出てなるべく沢山の種類が欲しくなります。
 私の家では冬の室内暖房に薪ストーブを使っています。最初の頃は焚くだけで楽しくて、手当たり次第木であれば何でも燃やしていましたが、灰釉を意識してから燃やし方を変えました。樫、松、杉、三種類の薪があるとすれば、最初に樫だけを続けて燃やしてその灰を取り、次には松をというようにして単独の灰を集めました。

桜の薪

 

 

 これらを長石、珪石と調合するわけですが、そのままというわけには行きません。ストーブから取り出したままでは、土や砂や燃えかすなどの不純物が混じっているので水簸(すいひ)という作業でこれらを取り除かなくてはなりません。水簸は、水に灰を浸し灰汁(あく)を抜きながら、灰と不純物の比重の差を利用して、一週間以上もかけて純粋な灰を取りだすのです。今私のストックしている灰は、松灰、樫灰、桜灰、土灰(いろいろの雑木を燃やした灰)ですが、面白い材料があったらまだまだ増やしたいと思っています。
 余談ですが、このときに出る灰汁は染色に必要な材料なので、陶芸の廃物利用をしているうちに陶芸家と染織家のカップルが結構でき上がってしまうのです。

 

 

釉薬の原料

 

3×100÷釉薬

 こうして作った灰釉は現在七種類あります。その他に釉薬は、石灰透明釉、長石透明釉、イラボ釉、チタン釉、天目釉、ビードロ釉、辰砂釉、織部釉、一号釉、三号釉、白萩釉、アメ釉、均窯釉、白マット釉、紅志野釉、鉄釉、そば釉、月白釉、と25種類を数えます。これは仮に同じ粘土で50個のぐい呑を作っても同じ釉薬の物は2個しかない上に一つ一つ意識して違う形にロクロを引きますから一個として同じ物はないことになります。
 実際作業にはいると今回使うと狙いをつけた単身粘土をベースに、鉄分の多い物、中くらいの物、少ない白っぽい物とを8kgづつ3種類作ります。この粘土でそれぞれ100個、計300余個のぐい呑が出来ます。そこに25種類の釉薬を掛けたいところですが経験的に何種類かは合わないものあるので普通は20種類くらいの釉薬を掛けます。ざっと60種類で300個のぐい呑が上がり、同じ粘土同じ釉薬の物は5個しかありません。これらを二通りの焼き方でさらに二種類に仕上げます。

 

最終回へつづく

第一回 第二回 第三回 最終回

[蔵のページへ]