明眸皓歯という言葉の通り白く輝くような歯は万人の憧れといってもよいでしょう。しかしただ白くといっても1本の歯の中には白、イエロー、オレンジ、ブラウンなどさまざまな色がブレンドされてその美しさを演出しており、決して単色ではありません。さらに透明感がクリスタルのような輝きを生み出しています。何かのためにその一部や全体が失われてしまってその回復するためには、本来もっていた美しさを回復するだけでなく長期間持続することが必要になります。


 しかし、ようやく鋳造冠が臨床に導入され始めたばかりの50年前には、歯冠色の修復は既成陶歯を使う継続歯しかありませんでした。そのため多少のメタル露出を容認するか、保存できる歯質も切断するかの選択を迫られました。
 そんな時期、ポーセレンジャケットクラウンを紹介する一冊の本が新たな世界を開きました。カリフォルニア在住の村田省三先生の紹介に、著者だけでなく長尾優、沖野節三、大西正男、林都志夫といったそうそうたるメンバーが尽力された様子がよく分かります。
ジャケットクラウンの破折
 大きな期待を背負って始まったジャケットクラウンでしたが、次の悩みは頻発する破折でした。色調も透明度も申し分なく患者さんにも気に入っていただけるのですが、ある日突然起こる破折は両者にとってショックでした。アルミナスのコア材を用いたり、右下の写真のようにアルミナスのプレートを埋め込んで焼成したりもしましたが、見るべき効果は上がりませんでした。
 愛着はあるものの背に腹は替えられず、徐々にメタルボンドに変わっていったのが70年代に入った頃です。それでもブリッジは仕方ないとしても、単冠はジャケットクラウン!という術者は少なからず、箔を残したまま装着するものなど、さまざまな製品が開発されましたが決定打はなく、メタルボンド独占の時代が続きました。

破折対策
 ショッキングな破折は回避できるものの、メタルの影響による色調の悪さや不透明感が嫌いで、最後までジャケットクラウンにこだわっていました。左の図はメタルボンドの断面図ですが、メタルフレームとその色調を遮断するために不透明なオペーカーを使いますから、ジャケットクラウンのようなわけにはゆきません。とくに歯頚部付近が問題になることはこの後あちこちで見て頂けます。

 話は少しそれますが、次のケースはまだジャケットクラウンにこだわっていた1969年、術者38才のときのケースです。




 4前歯の中3歯は失活歯でしたが左中切歯だけは有髄歯で欠損も大きくありませんでした。仕上がりを良くするには4本そろえて処置したかったのですが、有髄歯をクラウンの仲間に引き込むことには抵抗がありました。残した1本のために色調再現には苦労しましたが3回目で終わりにしました。

 破折は1回も起こりませんでしたが、経過は思わぬ方向に推移しました。途中経過は省略していますが、次第に長さが不揃いになる天然歯を不思議に思いながら見ていました。16年後にようやくその正体を突きつめました。下顎前歯の叢生が徐々に強まりその咬合接触で咬耗が進んでいたのです。マージンの露出、有髄歯の変色なども顕著で経年変化の大きさには頭を抱えました。

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オールセラミックス  1990年代
 これまでの陶材作業は前掲の写真のように作業模型に白金箔を圧接し、その上に陶材を盛ってファーネスに入れ焼成を繰り返して完成させていました。1990年代に入るとキャスタブルセラミックスと呼ばれる新素材がいくつか登場してきました。メタル鋳造と同し術式で鋳型の中にセラミックスを注入または圧入するというものでわれわれには馴染みやすいものでした。さらに素材自体の物性が格段に向上しているというふれ込みに、歯冠修復の常識が変わるのではないかという期待を抱いてしまいました。

 何種類かの製品を手分けして慎重に検討したつもりでしたが、いずれも新製品でデータばかりで臨床実績はありませんでした。最後に国産だからとか一流光学メーカーだとかいう曖昧な選択をしたことが、飛んでもない事態を呼び込むことになってしまいました。結果は破折に継ぐ破折で悲惨の一字でした。新規参入メーカーは売り逃げ役所は頬かむりで、ご迷惑をかけた患者さんへの後始末はすべてわれわれユーザーだけに背負わされました。歯科材料メーカーとしての過去の実績を重視し、もう2?3年様子を見て導入していたらずいぶん違った展開になったと思います。



上の写真は1996年「新しいセラミックスへの期待と蹉跌」と題して歯界展望に連載したときの破折事例です。同時期にテストをしていながら選択を間違えたために、200ケース余のOCC再処置をエンプレスなどで行うことになりました。バブル崩壊期の思い出したくない出来事です。
 2年後の1998年「新しいセラミックスへの期待と蹉跌その後」を同紙に執筆しましたが、ここに書くことは2009年その10年後の現状です。
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前歯の修復
図1. 最初の画像は30代の女性で歯並びに若干の乱れはありますが、美しい歯が維持されています。唯一矢印の下の部分に小さな充填がされて変色していることだけが気になりますが、この状態であれば再充填するだけで本来の美しさを回復することができるでしょう。下顎前歯の噛み合わせなどに気をつけていかれれば、健康な歯肉も併せもって生涯大きなトラブルもなく過ごされることでしょう

図2.2枚目の画像は20代の男性です。永久歯がつくられてくる時期に薬の影響があったりすると、歯にこのような着色が起こることがあるといわれています。このケースは犬歯付近の変色がひどく正中部はあまり強い変色がないので良かったのですが、ご本人は周りの人以上に気にされるものです。もちろん虫歯ではありませんからこれ以上ひどくはならないのですが、どうしても直したいとなるとその部分だけを漂白することになります。最近はホワイトニングなどという名前で広く使われていますが、歯質を白濁させるために強い薬品を使いますから、私たちはどうしてもという強いご要望がある場合以外は使いたくありません。選択的に行う時はその移行をどうするかもむずかしい問題です。

図3.この画像は60代の女性ですが問題は少し深刻です。噛み合わせの問題はさておくとしても、歯の表裏にいくつもの大きな充填がされており、変色しているものも少なくありません。変色した部分以外もほとんどの表面がコンポジットレジンで、光沢のある歯の先端付近だけがエナメル質でした。
 虫歯になっていないから良しとするならばともかく、きれいに改善するには変色が著しい充填物などを取り除いて、セラミックのシェルに置き換えたりクラウンにしなければばなりませんでした。(3枚目の写真)こうした処置にはオールセラミックスが最適で、金属をつかうメタルボンドでは写真の左側に半分だけ見える小臼歯のように不透明で自然観のないものになってしまいます。

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経年変化
このコラムは「白い歯」というタイトルになっています。しかし実際に目標にしているのは白い歯ではなく、逆説的ですが白さが際だたないような修復なのです。周囲の天然歯の間に入ってどれが修復した歯か分からないような状態こそがわれわれの理想なのです。
 ここに3枚の画像があります。一人の患者さんの28才から60才までの記録です。もちろんカメラもストロボも違いますし、記録方法もスライドからデジタルに変わっていますから、厳密な比較は困難です。 しかし1976年から2009年までの間にさまざまな変化がありました。最初の修復の後何度か処置を繰り返しましたが、その年数は中段の画像に書き込んであります。
80年代に大病をされ追加処置をできるようになるまで大きなブランクがありましたが、70年代の6本のメタルボンドと90年代以降のコンポジット充填に2分されて、興味深い変化が見られます。

 その第一は上段から中段への天然歯の色調の変化です。メタルボンドをとりかこむ犬歯などが大きく変化し,結果として不透明なクラウンの白さが際だっています。もちろんコンポジットはこの時に残存していたものでその前に再充填は行われていますから、30年を越えたメタルボンドと同列で比較はできません。最少の再処置でこの状態を改善する方法を模索した結果、正中で根面の着色が著しい中切歯2本をジャケットクラウンに交換し、変色著しいコンポジットは再充填を行いました。もちろん3本の小臼歯も気にはなるのですが今回は見送りました。ジャケットクラウンは歯頚部のマスキングに留意するとともに、周辺残存歯との中間を目指しました。

 このケースから学ぶことは健全歯といえども変化はまぬがれない経年的色調の変化の中で、ただ白さを追いたい人はメタルボンドもやむを得ないでしょうが、やはり透明度の高いオールセラミックスやレジン充填は自然観を確保できるだろうということです。


 もう一つ長期経過症例を見て頂きます。初診は1969年で日本にメタルボンドが入ってきて間もない頃のケースです。
まだ30代でしたしメタルボンドの使い方もマスターしていませんでしたから、継続歯のブリッジをそのまま新素材に置き換えるという変則的な手法をとりました。経過が見られたのは10年以上がたってからでしたが、幸運にも歯内療法も成功し、ブリッジの方もまずまずでした。
しかし再び長いブランクに入り、中段の状態が見られたのは初診から30年以上が経っていました。

この時歯肉の退縮だけでなく片側のポストか離脱して動揺することが主訴でした。ブリッジを切断し片方のコアを再製してオールセラミックスによるブリッジを装着しました。根面変色の影響は受けていますが、先代のブリッジよりは自然観は向上したと思います。これがジャケットクラウン以来こだわり続けてきた透明感の再現です。
*  術後15年エンブレス(ブログへ)
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■ 歯の漂白
 明眸皓歯という言葉の通り白い歯は万人の憧れといってもよいでしょう。しかし同時に得難いものであることも事実です。白さと一言でいっても、雪の白さと紙の白さは違うようにいろいろな白さがあります。
 歯の色調は外側のエナメル質と内部の象牙質で作り出されます。全体としてもかなり透明度を持っていますが、その度合いが違う2つの組織でブレンドして作り出されているのが特徴です。エナメル質はガラスのように固く透明な組織ですから、内部の象牙質の色に大きく左右されます。進入路が見つからないくらい小さな虫歯でも、象牙質の部分では急速に拡大することがありますが、こんな時歯は全体に黒ずんで見えます。エナメル質を壊さないようにして裏側に白っぽいセメントを張り付けると、歯の色はがらりと変わってしまいます。エナメル質が薄くセメントが完全に不透明な場合にはセメントの形がそのまま見えるほどです。
 奥歯に較べて厚みがない前歯は思いのほか透明度が高いものです。口の中に照明はありませんから透明度が高いとどうしても暗い感じになります。したがって白い歯にしたいときには全体を不透明にして行けばよいのですが、度が過ぎればペンキを塗ったような立体感のない白さになってしまいます。前歯を直す場合もホワイトニングをする場合にも透明度は重要なキーワードなのです。「歯を白くしたいけれど削られるのはいやだ」と思われている方は、こんな順序で考えてみてはいかがですか。
  1.  前歯全部ではなく1本か2本の歯が黒ずんできた場合は、充填した素材が変色してきたか、以前の治療のとき歯の神経を除去している場合が大半です。充填部との場合はつめなおせば改善されます。残っているご自分の歯が変色している場合は、裏側から漂白剤を何度かいれば改善できます。
  2.  次は全体の歯を白くしたい場合です。煙草だけでなく食べ物や飲み物の中にも歯に付着しやすい色素はいろいろあります。個人差はありますがお茶やコーヒーでも種類と頻度によってはかなり着色することがあります。外側は歯磨き粉を上手に使えばご自分でも落とせますが、内側まではむずかしいでしょう。歯科医院ではこうした場合に使ういくつかの方法をもっています。食塩の微細な粉末をエアーで吹き付けるような方法もその一つです。汚れやすい下の歯の内側をきれいにしただけでもかなり歯の色は明るくなります。
図1
図2
  1.  表面の汚れは落としてすっかりきれいにしたが、もう少し明るくならないかという方には、歯の表から漂白剤を作用させることになります。強い薬剤を長時間作用させればそれだけ漂白は進み一見歯は白くなります。ただこの方法は磨りガラスのように表面を白濁させて白く見せかけるわけですから、度が過ぎれば白壁のような不自然な色になってしまいます。歯は象牙質とエナメル質の二つの色がブレンドしてでき上がっているのに、白濁でそれが消えてしまうからです。したがってこの方法での改善には限界があり、テトラサイクリンによる変色のような強度の変色歯には使えません。またどこで漂白を止めるかのさじ加減もむずかしい問題です。私たちとしてはやや弱い薬剤を使うホームブリーチングと呼ばれる方法がお勧めです。それ以上の効果を期待される場合は残念ながら歯を削る以外にないでしょう。



    図3

    上の図はわれわれが人工の歯を作るときの色見本ですが、一つ隣の色に変えることが精一杯で2段階白くすることはできないと考えて下さい。繰り返しになりますが、ホワイトニングは魅力的な処置法ではあるのですが以下のことも考慮し、十分な相談のうえ慎重に行っていただきたいと考えています。
    •  全ての着色に劇的な効果があるわけではないこと
    •  一度白くなっても徐々にまた後戻りすることは避けられないこと
    •  自然観のない色になる場合があること
    •  強い薬剤を長期間使うことへのリスクは残っていること
    •  治療には保険はきかないこと
図4.術前
図5.ホームブリーチングを約1ヶ月続けた状態